ザ・ニック

2014 アメリカ ドラマ シーズン1・2

!ネタバレしています!ご注意下さい!


20世紀初頭のニューヨークの病院を描いた群像劇です。

特に先が気になってしょうがないストーリーでもなく、

めちゃくちゃ面白いわけでもないのに、

なぜか一気見してしまいました。

主演はクライブ・オーウェン。

他で見たことはありませんが、

ドラマの舞台、ニッカーボッカー病院の外科医ジョン・サッカリーを演じています。


群像劇なので、病院に関わる人々の物語なわけですが、

それぞれ個性的で、またそれぞれの心情がさらっとですが違和感なく描かれていて、

面白かったです。

医療シーンも多く、

百数十年前の医療の常識・・・今からは非常識でおぞましいものも多くてぞっとしました。

生々しいシーンも多く、下手なホラーよりもよほど怖かった・・・。

医療描写があまりにも生々しいので、

このドラマを見ていて、医者なんて全員サイコパスだとあらためて思いました。

ちょうど指先に棘がささって、自分でカッターと棘ぬきで抜いたのですが、

人の体にメスを入れて臓器をどうこうするなんて、正気の沙汰ではないよな、と。

精神疾患の患者の歯を全部抜いたり、扁桃腺や脾臓を抜いたり、

優生学と称して不妊手術をしたり。

科学・非科学、その境界がどこにあるのか、結局はその線引きが非常に非科学的だったり。

人間の滑稽さも描かれていました。

滑稽といえば、人種差別についても。

優生学と絡む話ですが、病院No.3の外科医だったエバレット・ガリンジャーは

自分のものと思ったNo.2の座を黒人医師に奪われ、

同時期に娘を病で失い、妻は精神を病み、

うまくいかない自分の境遇への鬱憤を人種差別にぶつけ、

優生学という差別思想へ傾倒していく過程が描かれます。

順風満帆なエリート医師が憎悪をかかえて過激な思想をふくらませていく、

人種に限らず人間なら誰しもが抱える負の側面。これもまた恐ろしいですね。

しかも彼はその感情に気付かず、それを科学と妄信している。

信じるということは、素晴らしくもあり恐ろしいものです・・・。


今の医療の常識も、100年たてば非常識。

それぞれの時代の医療なんていわば全て実験。

例えば100年後には、AIが全ての診断・医療行為を行っているかもしれない。

人間がメスを持っているなんて怖すぎる、なんて時代かもしれないし。


シーズン1・2を見終えて、やはり圧倒的存在だったジョン・サッカリー。

天才外科医だったのに、薬物中毒になって、結局最後の手術は薬物による暴走ですよね。

中毒症状の拠り所となっていた恋人アビゲイルを失い、

自分の過失で死なせた少女の影を追い、苦しみを抱えきれず、

結局は手術室を舞台にした自殺ショーのようでした。


とことんゲス野郎だったのはニックの雇われ院長ハーマン。

私利私欲のために奔走し、妻子を捨て愛人に走り、

その場しのぎを繰り返して生きる本当にゲスな男。

保身のために自分名義の資産を愛人に託しますが、裏切られるまでは描かれず。

でも最終話、やっとの思いで入った会員制クラブで手の湿疹が・・・

あれは恐らく天然痘・・・

そんな(本人にとっては)不穏な影はありますが、

具体的には描かれず圧倒的に消化不良なので、

自分の脳内で、愛人に全てを奪われた上見捨てられて

野垂れ死にする様を想像するしかありません。

ハーマンは愛があると思っているけど、そこに愛は存在するわけないから。(なんかのCMみたい・・・)


美しかったのは看護師のエルキンス。

最初はジョン、最後は病院経営者一族のヘンリーと関係を持ちますが、

ジョンと付き合う頃の純真無垢な可愛さから、

薬物中毒に陥りどんどん墜ちていくジョンのために道を踏み外す度に、

今度は妖艶な美しさを得て、結局色男のヘンリーを手玉に取るまでに。

厳格だった牧師の父が実は娼家に通い詰めていたことを知り、

最後はその父に対して死に際に全ての罪(父がいうところの)を話して聞かせ、

これ以上ない復讐を果たします。

すごい怖いし、人としてどうなのと、思う部分もありますが、

美しくて強くて大好きな登場人物でした。

途中には女性医師を目指すのかな?と思ったりしましたが、そうはならず残念でしたが。


救急車のクリアリーとシスターのハリエット、

犬猿の仲から、2人で闇中絶稼業を行い、ハリエットは逮捕され、教会を追放され、

コンドーム製造を始めて結婚に至ります。

移民として苦労して生きてきて、神に身をささげたハリエット。

神職の頃は人生の楽しみを感じない人のように描かれていましたが、

実際はチャーミングで度胸もあって愛情あふれた人柄で。

最終的にクリアリーの懺悔で逮捕されたのは彼の差し金だったと判明して、

かなりずっこけました(だって、逮捕されたハリエットに唯一残された友人みたいな立ち位置でいい人キャラだったから)が、彼の、神から自由になってから彼女は幸せそうに見える、との言葉が納得できたので結果オーライでしょう・・・。

女性の人権か、神への冒涜か。

富裕層の白人たちも表向きは重罪と説いておきながら、

結局それを必要としている。

中絶を巡る矛盾を描いていましたが、

ハリエットが幸せを掴んだことで、宗教観に囚われない描き方をされたドラマだな、と安堵しました。

クリアリーが今まで中絶してきた良家のお嬢さんを一同に集めて、

ハリエットが裁判で全部ぶちまけるから、

それが嫌ならそれぞれの相手の男に裁判を止めさせろ、と脅して、

実際、重罪にすると息巻いていた裁判官が手のひらを返して無罪になるところが

爽快で面白かったです。

結局神への冒涜とかそんなもの建前で、みんなわが身がかわいいだけだったという・・・

随所にそんな皮肉がこめられたドラマでした。

でも冒頭、まさかクリアリーが愛すべきキャラになるとは・・・

クリアリーとハリエットの存在が視聴者の癒しポイントになるとは・・・

意外すぎでした。


ロバートソン家のお嬢様コーネリアとアルジャーノンの恋、

身分と人種を超えた恋がもう少し描かれるかと期待したけどさすがにそこまでいくと全くファンタジーになるんでしょうね。

アルジャーノンの奥さんや黒人指導者、その手術中のエバレットの妨害、

バートラムと記者の関係、

いや、ほったらかしのお話しがありすぎ・・・

良い兄に見えて実は黒幕&父を殺したヘンリー、

単身オーストラリアに渡ったコーネリア、

いや、もりだくさんすぎる・・・

コーネリアには残ってニックの院長として人種を超えた病院にする、とか

してほしかったけど、それもまたファンタジー。


めちゃくちゃ面白いわけでもない、といいながら、

書き始めるとあの話も、この話も、と感想が止まらない・・・

中毒とか医療とか宗教とか人種とか、とにかく色々盛りだくさんなドラマでした。


結局エンディング、アルジャーノンがジョンの遺志を継いで中毒者へのカウンセリングを始めるシーンで終わりましたが、

医術というものは日進月歩、最新が塗り替えられていくけれど、

結局人と人との対話、それは病も人種も性別も超えてゆくものだというメッセージのように感じました。



Duka’s

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